特別養子縁組でも保護される「出自を知る権利」
原則として、実親や養親の立場から、子の従前の単独戸籍を閲覧請求することはできないとされています。子以外の者には情報開示の制限をする配慮が必要だからです。これは行政庁の窓口によって対応は異なるかもしれません。
特別養子縁組により戸籍上も実の子にしたとしても、実の親の存在を子に隠し通すことは、物理的にできない仕組みになっているのです。確かに、養親の戸籍にはどこにも、「養子」という記載はなく、一見すると実の子であるように見えます。しかし、子の身分事項欄には、「民法817条の2による裁判確定」と記載されます。これが特別養子縁組にて子となった証明として記載されます。この記載を消すことはできません。理由はやはり、「出自を知る権利」を守るためです。子が年ごろになり、自分で戸籍を取得したときに、自分の身分欄に「裁判」の文字があれば、疑問に感じるでしょう。そしてインターネットで調べれば、戸籍の見方は分かります。従前戸籍である子単独の戸籍を請求する方法も、容易に知るでしょう。
養子であることは事実であり、法律上も隠しきれないのです。里親が特別養子縁組を目指すこだわりがここにあるのなら、立ち止まる必要があります。特別養子として迎えながら、事実を隠し通すには限界があるからです。聞くところによれば、特別養子縁組が成立した途端、引っ越しをして、近所や親族にも養子であることを隠して暮らす養親がいるそうです。子育ての方針なのでしょうが、隠すことに意味があるのでしょうか。制度上、努力として完全ではありません。疑問なのは、養育里親と特別養子縁組里親で、子に向ける愛情に違いがあるのかということ。戸籍が断絶されるから、実の親の存在が払拭できるという望みなら、これもやはり、里親制度の目的である「子のため」とは違うように思います。
現在の法律では、特別養子縁組の対象は6歳未満です。ということは、子は自己で判断できないままに、特別養子となるのです。つまり、子の意思に関係なく、子から実の親を戸籍上からも物理的にも離すという極めて重大な判断を、関与する大人の判断だけで決めるです。これが例えば15歳だとどうでしょう。それまで養育里親として家族として共に生活し、その実態を踏まえて将来を考え、なにより子の意思が尊重された上で、条件が揃えば養子縁組とできるはずです。今後、特別養子縁組の対象は原則、15歳未満となるよう、法改正が進む見込みです。親子関係が断絶されるという判断であれば、子が自分の意思で決定できる年齢になってから行うことが、理想と言えるのかもしれません。
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