特別養子縁組は誰のための制度か

2020年4月21日

「里子を待っている間の、心の置き所が分からない」という意見を聞きました。これは、まだ一人も里子を受け入れておらず、委託待機中の里親予定者(特別養子縁組の希望者)の方からの発言です。つまり、里子の委託依頼を待っているが、気が急いてしまい、連絡が来るまで待ってはおれず、何も手がつかないという状態です。待ち遠しい気持ちは分かります。まだ見ぬ子を胸に抱く日を思い描けば、期待が先走り、居ても立っても居られないのでしょう。

しかし、里親制度は、誰のための制度なのかを考えれば、児童相談所の職員がいる公の場において、このような発言はできないはずです。そのための気持ちをどう整理すればいいか、その方法を教えて欲しいというこの発言は、気持ちは痛いほど分かりますが、公の場では控えるべきではないでしょうか。

里親制度は、子のための制度です。里親になる前のまだ養親候補者に過ぎない段階での気持ちは、残念ながら、考慮はしてもらえないと思います。一方、里子を預かった後の里親の気持ちは、どうでしょう。これは、配慮されて然るべきだと思います。

短期の養育を受け入れた里親さんから、こんな話を聞きました。どうやら実の親が病気などで急遽、その里親さんに一時的に預けられたそうです。しかし、実親さんは予定よりも早く病気が回復したことで、児童相談所から当初聞いていた期間は短縮されて、里子は実の親元に戻ったそうです。この子と実親にとっては、とても良い結果となりました。しかし、期間が早まり自分の元から急に離れることになった里親さんは予期せぬ事態に気持ちが追いつかず、子が帰った後は毎日が寂しくて寂しくて、夫婦で毎晩泣きながら布団に入ってらっしゃるそうです。この場合の里親さんの心のケアは、必要ではないでしょうか。これこそ、気持ちの持って行き方がない、心の置き所がない状態なのだと思います。その子のため、精一杯愛情をこめて、わずかな時間だったかもしれませんが、本当の親子のように接しておられたことが、手に取るように分かるエピソードだと思います。愛情は、容易にコントロールできるものではありません。真剣に誠実に向きえばそれほど、思いは深くなります。このご夫婦が、また次の里子を預かると言う意思が持てるよう、児童相談所は里親の気持ちにも配慮して、向き合っていただきたいと思います。