虐待から命を守るには、児童相談所の職員の増員が不可欠

2020年4月21日

施設の建物

今月5日に札幌市で2歳の児童が虐待により衰弱死した事件は衝撃的でした。

何度も救える機会があったのに、児童相談所と警察の不適切な対応から、また幼い命が失われたからです。

 

「臨検」が実施されている実体は、ほぼゼロ

現在、児童相談所では、虐待の通報から原則48時間以内に安全確認が出来なかった場合には、立ち入り調査をするルールになっています。この強制的な立ち入り調査は、「臨検」と呼ばれていますが、平成20年度の導入以後、この10年間でわずか17件に留まっています。これはつまり、1年間で日本全国において、わずか1件程度の割合です。実施されるのが極めて希だということです。確かに、個人の住居に強制的に立ち入るのはプライバシーの侵害になり兼ねません。しかし、命よりも保護されるべき権利であるはずがありません。

今回の札幌の事案では、児童相談所及び警察に、この意識が足りなかったために、防げなかった事例であるように思います。また、臨検の実施がほぼゼロだという現状が、強制立ち入りの足かせになったのではないでしょうか。児童相談所及び職員は、自分がレアケースになるのを恐れたとすれば、問題です。このような認識では児童の命は守れません。強制執行する権限が与えられているのですから、これを行使せずに結果として死に至らしめたなら、その責任は極めて重いと思います。

 

児童と警察は連帯責任で、一連拓植して命を守る覚悟を

今回のケースでは、警察と児童相談所との間の連携が悪かったことも要因だとされています。48時間ルールは警察にも連帯して適用するべきだと思います。つまり、虐待の通報が児相に入った場合、速やかに警察にも連絡する義務を課し、逆に警察に通報された場合は、児相に通報する仕組みとともに、警察にも48時間ルールの徹底を義務化します。イニシアチブは児相が持つべきだと思いますので、これにより既に調査権限は双方に付与されているはずですから、責任の所在の擦り付け合いは生じないのではないでしょうか。

 

そもそも児童相談所の職員数が足りていないのが問題

近年、虐待される児童の数が急増しています。社会的な問題にもなっていますから、周辺住民など第三者からの通報も激増しています。その対応のため、児童相談所の職員は虐待への対応として、職員の割合の多くを配置しています。命は何よりも大切ですから、当然のことだと思います。しかし、私が里親登録している児童相談所の所長から、聞きたくない言葉が出ました。それは、「児童相談所の職員は虐待の対応に追われ、里親委託に手が回っていないことに、理解をして欲しい。」との旨をおっしゃったのです。しかしこれは、別次元の問題とすべきです。職員の数が足りないことを理由に、保護されている児童の養育環境(生活)が後回しになることを仕方ないとするのは、児童福祉の観点から容認できるものではありません。保護された児童が幸せに生活できる可能性を、大人の都合で排除させているようなものです。誤った判断や対応から、児童が適正に養育されるべき歳月が失われたなら、もはや取り返すことはできません。児童相談所を含め、行政の職員は削減される方向のようで、増員は厳しいのは分かります。また、嘱託の職員で対応できるような職責ではないことも理解できます。だからこそ、行政の予算配分、人員配置に問題があると言わざるを得ません。

このままでは、一時保護所に児童が溢れ、受け入れが出来ないので臨検にも消極的になる、その結果、児童の命が危険に晒されるという悪循環から脱却できません。

 

虐待担当と里親制度担当の職員を同時に増員することが、行政の最優先課題

今こそ、虐待担当はもちろん、里親制度の担当職員についても同時に大幅に増員すべきです。施設や里親家庭への委託をもっと積極的に実行し、せめて一時保護所は何時でも受け入れ可能な状況で、常に待機しておかなければ、尊い命は守られないでしょう。

 

児童相談所の機能の分離も選択肢か

児童相談所の内部で対応が不可能なら、虐待による保護と、里親制度の推進の機能を、別の組織として分離することも検討すべきではないでしょうか。別組織であれば、独自の判断で単独で、職責を全うできるはずです。児童相談所のキャパシティーがオーバーしているのは明らかで、機能不全に陥っているとすれば、組織改革しか改善の方法はありません。国は児童相談所に要望や指導をするばかりです。しかし、それでは抜本的な解決には至りません。制度面においても予算面においても、今こそ国の覚悟を示す時ではないでしょうか。

もう誰一人として虐待で命が失われることのないよう、国と行政には緊急の対応をお願いしたいと思います。