里子の名字を実名にするべきか?通称名にするべきか?
里子を養育する場合、その子は実親の姓(名字)で生活するのか、呼称は養親(里親)の名字にするのか、悩まれると思います。ここでは、日常生活での里子の名字について、行政事務の取り扱いの実際を鑑みながら、どちらの名字を使用すべきか考えてみます。
住民票で里子の名字は、実名で記載される!
まず住民票(住民登録)において、養育期間中の里子の名字は、どのように記載されるのでしょうか。原則として住民登録は戸籍の内容に基づくものですから、住民票において里子は実親の名字で記載されることになります。仮にカッコ書で通称名が記載されたとしても、法的効果には何ら影響がありません。
世帯主との続柄は、「同居人」?「縁故者」?
世帯主との続柄の項目については、親族でなければ法律上は他人となりますから、他人の子を育てる場合の住民票の記載(住民登録)は、世帯主との続柄は「同居人」となるはずです。しかし、自治省(現在の総務省)が平成6年12月に通知した「住民票における世帯主との続柄の記載方法の変更に伴う事務の取扱いについて」によれば、里子の養育期間は「事実上の養子」の扱いとして、住民登録の続柄は原則として「縁故者」とすることになっています。里子の養育開始時に、自治体の市民課の窓口にて里親登録証と措置変更結果通知書を提示すれば、住民票の続柄の欄に「縁故者」と記載されます。この配慮は里親にとって、とても有難いことです。法律上の違いはないとしても、「縁故者」と「同居人」では、育てる者の心情として大きな差があると思います。
特別養子縁組の場合は、住民票の続柄の欄には「子」として記載され、養子の文字はどこにもありません。
里親の元での養育後に18歳を超えるなどして措置解除となった場合で、それ以後も同居するのなら市町村役場に申出書を提出し、続柄を「同居人」に変更することになります。
学校や病院等では通称名(里親の名字)を使うこともできる
一方、医療機関における場合を考えてみます。養育されている子の場合、診察を受けるには児童相談所から発行される「受診券」が必要ですが、その受診券の氏名欄には、通称名つまり里親の名字とともに、カッコ書きにて実親の名字が併記されます。病院では子ども自身の名前「○○○○(名字+氏名)さん」で呼ばれるのですが、通称名が記載されている場合、医療機関の窓口においては、呼び出しなどは通称名とする配慮がなされています。このような配慮は、例えば学校などでも意思を伝えておけば、里親の名字である通称名で通すことは可能で、それを希望される里親も多いと思います。
通称名のデメリット
しかし、長い間にわたり里親の名字で通したとしても、例えば年齢が進んで受験や資格、運転免許の取得、就職や結婚などのイベントを迎える場合は、通称名ではなく実名(戸籍上の姓・名)が必要になります。この時、真実告知が適切になされていなければ、その子の心的影響は大きなものになるかもしれません。
実名か?通称名か?私なるこうする
これは養親の育て方の概念にも依るのですが、委託が開始された時から通称ではなく戸籍上の本名(実親の名字)を日常においても使うことも検討すべきではないかと思います。これは確かに、今なお残る社会の偏見からレッテルが貼られる環境に里子を置くことを意味するのかもしれず、育てる親としてはその負担を除去してあげたいと思うものです。また、里親と里子の名字が違うことに、常に他人から疑問を持たれ、その都度説明することは心理的な負担が大きく、面倒と思えるかもしれません。しかし、今の時代はなるべく早い(幼い)段階で、真実告知を継続的に行うべきという考えが主流です。なにしろ、特別養子にしてもその事実を隠すことはできないのですから、真実告知という課題と最初から向き合うためにも、世間における呼称の問題についても、実名として対応するのが自然なのかもしれません。通称で生活しても戸籍で名字が違う以上、取り繕うことが難しく避けられない状況に直面した場合には、矛盾のような綻びが表出するからです。その時に「実は・・・」と真実を告げるよりは、課題を先送りにしない対応をもって、その子に対することはもちろん、周囲にも理解を得ることが、長い目で見れば良いのかもしれません。
しかし現実は理想通りには行かないことも
虐待を受けてきた子は実名を使いたくないと思う場合があったり、逆に里親の名字を名乗ることに抵抗を示す子もいるでしょう。どちらを使うべきかという判断は子の意見を尊重した上で考える必要があって、ケースバイケースで決定すべきですし、養育をする上で最初に直面する大きな課題と言えるのかもしれません。
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