里親委託を推進すれば施設の運営が厳しくなるという矛盾

2020年4月21日

乳児院や児童養護施設を含む児童福祉施設の現状について考えてみます。

児童福祉施設には民間も含まれますが、その運営費のほぼ全額が税金で賄われています。施設には「措置費」として支給され、その財源は国と都道府県が半分ずつ負担する仕組みになっています。そのほか、所得などに応じて保護者がその一部を負担(徴収金と言います)するほか、寄付金なども収入源となります。

措置費の構成としては、事務費と事業費に分かれます。事務費とは、施設の運営に必要な人件費などの諸経費のことです。法律により施設の規模や入所者数等から配置すべき職員の人員の数は決まっており、それに応じて事務費の保護単価として人件費等が支給されます。また特定の基準を満たす職員(心理担当職員や里親支援専門相談員など)を配置した場合には、職員加算等があります。事業費とは、施設に入所する児童に直接必要な経費のことで、入所する児童一人当たりの保護単価から算出されます。つまり、施設に入所する児童が多いほど措置費は比例して多く支給され、逆に少なければ施設の運営に影響が出ます。建物の維持費や水道光熱費などの固定費として施設が支払う出費は、児童の人数の違いでは、さほど変わらないからです。もちろん、配置すべき職員の増減がありますから、必要な人件費としての経費は増減するという事情はあります。

この制度において、もし施設が児童を多く受け入れるほど財政面で厳しくなるような仕組みであれば、施設としては受け入れに消極的にならざるを得ません。児童養護施設は、以前は孤児院と呼ばれ、身寄りのない子が生活する場でした。現在は孤児は少ないものの、前身での役割からも、国として児童福祉施設の存在なしでは、家庭で暮らせない児童を保護しての養育が成立しなかった背景があります。よって児童福祉施設を維持し存続させるためにも、傾向としては入所している児童が多いほど、運営面で有利になるような制度設計になっています。

ここに、これからの国の施策との矛盾が生じます。厚生労働省は、2025年までに就学前の子どもの里親委託率を75%まで引き上げるという目標を掲げました。2017年3月時点で、里親への委託率は18.3%ですから、これは大きな目標値と言えます。児童養護施設では就学児童が大半ですが、未就学児も入所しています。また、児童福祉施設には、乳児院も含まれます。新規に保護された児童の委託のほか、既に入所している児童の大半を施設から里親家庭に委託を移さなければ、実現しない数値と言えます。

しかし、児童福祉施設の経営状態は全般的に厳しく、潤沢な資金で運営できている施設はほとんどないと言われています。国の方針により施設から里親に委託が進めば、施設の経営維持が難しくなることが想定されます。この傾向は、既に現時点でも表れています。少子化の影響もあって都道府県によっては、定員割れをしている児童福祉施設が少なくありません。自治体(児童相談所)にしてみれば、国の方針に履行義務はないとしても従わざるを得ませんが、保護された児童の預け先として児童福祉施設の存在が欠かせない状況は変わりません。共存関係にあるとも言えます。国の方針に従い、積極的に里親への委託を推進すれば、相対的に施設への委託は減少しますから、児童福祉施設の経営維持が危うくなるというジレンマを抱えているのです。では、この矛盾を解決するには、どのような方法が考えられるのでしょうか?

里親

Posted by sarifa