里子と里親のマッチングは自治体の管轄地域に限られる現実
児童相談所から里子が委託される場合、管轄の地域を跨ぐ(越境する)ことはありません。養親に委託されるのは、同じ行政区域(都道府県)に居住する里子に限られるのです。私は里親の研修を受けるまでは、特に特別養子縁組の場合、地域に限らず全国から里親とのマッチングが行われると思っていました。その理由は先入観なのですが、実親の存在(所在)が分からない環境のなかで、養親との家族関係を再構築することが、子どもにとって良いことだと思っていたからです。しかし、里親制度は子どものためであって、実親の存在を隠すことが良い生育環境だとは言えません。真実告知は避けて通れない課題であり、養子の事実は隠すことができない以上、実親の存在を物理的に遠くに離すことに、あまり意味はないように思います。実際のおいても、家庭を必要とする子の委託先は、同じ地域内の里親から選ばれています。例えば管轄する児童相談所が千葉県であれば、千葉県内に住む里子が委託される里親は、同じく千葉県に在住の里親のみが対象になります。千葉市の場合は政令指定都市なので、お互いに千葉市内での委託ということになります。この管轄を越境することは基本ありません。ということは生活圏が近い状態が継続しますので、ひょっこりとスーパーで実親と養子が会うことも起こり得るのです。
特別養子縁組の成立後に、実親と里子がひょっこりと偶然に出会ってしまうことの是非はあると思いますが、一番の課題とすべきは、里親制度に地域格差が生じている現実です。児童福祉法により運用されている里親制度ですが、都道府県によってまちまちで、愛知方式を採用して、新生児での特別養子縁組の成立を積極的に働きかける自治体もあれば、制度の推進に及び腰で消極的な自治体もあります。これは即ち、里親制度の委託率及び特別養子縁組の成立率に直結します。また、子の福祉を優先して、養親の待機順を飛び越してでも、高い意識と使命感をもって養親との最適なマッチングに注力する自治体もあれば、逆に委託率のみに意識を向けて里子の斡旋を順番通りに機械的に行う自治体もあります。これが委託率では見えてこない制度の本質の差に繋がっているのです。極論ですが、A県では養親候補がおらず、一方B県では長い順番待ちが生じていたとしても、A県で暮らす里子は、A県に住んでいる養親が現れるのを待つしかないのです。待って養親が現れたとしても、あいにく全く相性が合わず生活が破綻したのでは、家庭での生活を必要とする子にとって、不利益と言える状況ではないでしょうか。選択肢は広く平等にあるべきです。
もし全国的な情報ネットワークが構築された結果、里親制度についても自治体での相互間交流、情報交換が実現したのなら、地域格差は解消に進むでしょう。たまたまA県に生まれたばかりに、養親と巡り合えず、18歳の措置解除まで施設で過ごすという事態が、現状ではあり得ます。縁組や委託が同じ行政区域でなければならない特段の理由はなく、大人の便宜上の都合となります。事実、人口も出生数も少ない地方の県で、特別養子縁組を待つということは、極めて確率の低い申し出であることを知らされないままに、ひたすら時間のみが過ぎるということなのかもしれません。
民間の斡旋団体は、全国規模でマッチングを行っています。聞くところによれば、中京圏に住んでいたところ、東北で対象となる新生児が生れたと連絡があったので、その数日後には車で高速を飛ばして迎えに行った、ということもあるようです。このスピード感を公的な機関でも実現すべきだとは思いませんが、里親制度を活用できる環境においては、全国レベルで公平であるべきということは、公的機関である児童相談所からの受け入れにおいても、ぜひ実現していただきたいものです。
しかしながら、児童相談所の役割は、委託が開始すれば終わりではありません。その後も、実親や養親を訪問し監察をすることで、子の成育環境が適切に保たれることになります。これがもし、日本全国に跨ったなら、訪問や面会のための移動時間や経費が膨大になります。これも自治体間のネットワークで情報交換が出来れば課題はクリアできそうですが、今はまだ難しいのが現状です。里親制度における地域格差の是正は、ぜひ喫緊の課題として取り組んでいただきたいと思います。
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