声を上げにくい里親に、国と児童相談所は積極的な情報提供を

2020年4月21日

里親への情報は枯渇している

里親として児童相談所に登録されている方は承知の事実だと思いますが、行政から伝えられる情報は多くありません。待機中の里親はさらに顕著で、得られる情報がほぼ皆無と言っていいと思います。それを補おうとネット上を見ても、掲示板などが少なく、今欲しい情報が得られる状況にはありません。自分の立ち位置はどこなのか、あとどれくらい待てば委託の声が掛かるのか、悩んでも思いを巡らせても、自分の気持ちが浮き沈みするだけで、何の解決にもなりません。気持ちの置き処がないのです。待機に1年以上は当たり前という情報は良く耳にするので、自分はまだ登録から数か月だから大丈夫という安心感は意味がなく、何の慰めにもなりません。実際に3年も5年も待っている方にとっては、その時間を取り戻そうとしても、出来ません。過去を悔やむばかりで誰も慰めも励ましもしてもくれず、もちろん児童相談所から結果も断りも示されず、今後に待ち続けても委託が開始されるかの保障もないのです。悲しく救いがないのは、委託が無い理由が示されないことです。自分の何が駄目だったのかを探す作業をしながら、自分を責めるしかありません。

 

児童相談所にマイナスイメージが付けば委託されないかもという不安は何を生むのか

里親は、何か声を上げたり不満を述べたり、児童相談所に要望やアクションを起こすことによって、委託の選定に悪影響を及ぼすかもしれないとの恐れがあると思います。里親家庭に委託する候補の児童が決定したなら、児童相談所は登録されている里親の中なら、最も相性も生育環境も良いであろう夫婦を選定します。この作業は、児童相談所の内部でのみ行われます。行政や児童養護施設等で作る連絡会や、里親支援専門員、里親会に意見を求めることはあっても、当然ながら選考基準や課程は提示されることなく、児童相談所の判断で決定されます。決定した場合、委託する里親に連絡はあっても、その他大勢の里親登録者に委託見送りの連絡は当然ありません。これの繰り返しです。おそらく年間の委託児童の数は、例えば里親会の総会や、児童相談所が主催する啓発セミナーなどで公表されるかもしれません。しかしこれは、厚生労働省の統計データで調べれば、誰でも閲覧することができる程度の内容です。つまり、児童相談所からの独自のデータは、ほぼ公表されません。里親は、委託された児童の実数という極めて狭い情報を見て、自分が選定から漏れたことを実感するのです。原因が何かを考えても答えはありませんから、待機している残りの里親の数の多さから、これは仕方のないことだと自分を慰め言い聞かせ、憶測のみで自問自答するしかないのです。そして、また先の見えない長い道を歩くのです。

 

仕組みを変えられないのなら、せめて積極的な情報の発信を

児童相談所からすれば、この仕組みを崩すことはできません。個人情報保護の観点から過度の開示はできませんし、何より選考基準や待機の順番や状況を開示すれば、里親の不安や不満を煽るだけになるでしょう。だから私は、現在のように児童相談所の判断で、その子に最も良いであろう里親を選定して委託するという、現在の仕組みで良いと思います。しかし、情報の提供と未委託里親との関わり方については、もう少し積極的な関与があっても良いと思います。情報は開示でなく、提供で良いのです。委託中の里親には電話での連絡となりますが、おそらくほとんどの都道府県で、児童相談所から里親への主な連絡手段は、郵便ではないでしょうか。一方通行にしておかないと、業務が煩雑になるからです。この手段が郵便であることが、しかも年に数回であることが、情報の枯渇に拍車を掛けていると思います。インターネットが普及した今、なぜ情報サイトを作らないのでしょうか。なぜメーリングリストで配信しないのでしょうか。旧態依然とした体制を変えるのは、大きなエネルギーが必要です。それに踏み切る意味も時間も、国や児童相談所の内部には無いのなら、外部から動かすほかありません。しかし、その力は、情報提供を求める側の里親にはありません。理由は、声を上げにくい状況にあるからです。未委託に限らず、委託中の里親も然りです。委託先を選定するのも、委託の措置解除をするのも、児童相談所の判断で全てが決定するからです。もし自分が意見を申すなら問題のある里親としてブラックリストに乗って、委託される対象としてマイナスに働くかもしれないというバイアスが掛かるからです。私にしても、このブログを開設するにあたり、匿名で都道府県名も明かさずに、この記述をしていることも、それを恐れ案じているからです。私は、児童相談所が全ての権限を有するという、現在の里親委託の仕組みを変えたいのではありません。里親には共感できる場が必要なのです。心の救いになるからです。それほど精神的に疲弊している里親がいることは、もっと知られてもいいはずです。そのためには国や児童相談所が積極的に広く情報発信をしてくれるのが最善なのですが、例えばネット上でもいいので、情報発信の場、情報交換の場が必要ではないかと思います。里親制度は子のための制度ではありますが、里親の立場からすれば、社会貢献の面があるはずです。情報発信をすることで、里親が抱える悩みや不満が少しでも解消できるとすれば、積極的な情報提供には価値があると思います。

 

このままでは、未委託のままで登録を辞める里親が続出する

自分の家庭に子を迎え、温かく見守りながら育てたいという希望を持った里親候補が、叶わぬ夢だったと去っていくという事態は避けるべきだと思います。児童相談所は、里親制度の啓発活動に努め、里親を広く募集しています。その一方で里親家庭への委託率はさほど伸びていません。もし何年も未委託のまま理由も示されずに登録を辞めるような里親が続出すれば、その不満は増殖し里親制度自体のイメージも損なわれ、社会制度として支持されなくなるかもしれません。里親登録をしている者として、その空気を感じます。何より、志を持って里親登録した者が不満だけ抱えて登録抹消するという事態は、とても切なくやりきれません。今後、里親登録は全体的には増えて行くと思いますが、その背景にある登録の減少に自然発生的ではない要素がそこにあるのなら、大きな危険が内在していると思います。

他国の状況を見ても推進されるべき制度ですから、より良い里親制度になることを望みます。

里親

Posted by sarifa