統計データから里親委託の順番待ちが長いことの根拠を検証する

2020年4月21日

特別養子縁組を待つ順番が長いことは、以前のブログでも書きました。しかし、養育里親にも同様の現象がみられます。厚生労働省が発表している統計「福祉行政報告例」の平成29年度のデータから検証してみます。なお、特別養子縁組里親と養育里親など里親登録が重複している場合があるので、実体は若干異なると考えられますが、概況は掴めるはずです。

【里親の登録数と委託割合(平成29年度)】抜粋

 

認定及び登録里親数

 

養育里親 養子縁組里親
登録数 委託されている里親数 委託割合 登録数 委託されている里親数 委託割合
全国 11730 9592 3326 34.67% 3781 299 7.90%
茨城県 249 185 60 32.43% 73 3 4.10%
栃木県 262 222 69 31.08% 94 14 14.89%
群馬県 174 119 31 26.05% 81 5 6.17%
埼玉県 538 528 168 31.81% 387 5 1.29%
千葉県 480 393 136 34.60% 262 16 6.10%
東京都 793 537 316 58.84% 238 44 18.48%
神奈川県 222 220 88 40.00% 69
千葉市(政令指定都市) 75 55 22 40.00% 16 3 18.75%

これを見ますと、地域格差があるのがよく分かります。人口が多い都道府県(自治体)ほど委託割合が高い傾向にあるようです。特別養子縁組の委託割合が極端に低い理由については、縁組が成立すると目的が達成されて里親登録を抹消する養親が多いからと考えられます。

気になるのは、養育里親の委託率が低いことです。里親制度においては、養子縁組を希望する里親が多いために、児童相談所からの斡旋では望みが薄く、民間の斡旋業者に申し込む里親が多いことは知られていると思いますが、養育里親の委託率が概ね30%台で低く推移しているというのは、どのような理由があるのでしょうか。考えられるのは、虐待やネグレクトなどの増加により、その対応に追われる児童相談所の業務が加重過ぎるために、里親委託に手が回っていないこと。もう一つとしては、里親委託を推進すれば施設の運営が厳しくなる現状において、施設からの協力がまだ得られにくい状況にあること。また、これはあまり考えたくないのですが、委託のための里親の登録数は確保できているが、実際に委託するための条件に合致しない、もしくは委託が望ましくない里親が多いことでしょうか。もしこれも要因であるのなら、児童相談所や里親会が、新規で里親登録を呼びかける理由に納得ができます。広告や街頭などで、「養育里親になりませんか」という募集をしているなかで、委託率がわずか30%台という実績であれば、数だけで見れば里親は充分に足りているからです。委託がない待機中の里親にしてみれば、児童相談所が積極的に新規登録を募集している様子を見て違和感を覚える方は、多いのではないでしょうか。

特別養子縁組だけでなく、養育里親についても委託までの待機時間が年単位なのは、よくあることです。しかし、新たに養育里親を募集するのであれば、少なくとも待機中である里親には、然るべき理由とその報告があっても良いように思います。自分は何年も待機中なのに、他の里親には二人目や三人目が委託される現状を見ていると、状況と自分の位置に不安を抱いてしまう里親が多くいます。自分は何か劣っているのではないかと、人として問題があるのではないかと卑下する状況に精神的に追い込むのは、里親制度では避けるべき事態であると思います。里親制度は子のための制度ですが、里親の協力無しには実現しません。公平性が保たれなければ、制度として組織として歪みが生じます。悪戯に時間が過ぎて行くことに不安を覚える里親がいるという事実には、一定の配慮があっても良いのかもしれません。

里親

Posted by sarifa